もぐ日和世界の案内帖

雨待ちの四角

塩を作らなくなった槽に、雨と草ともぐが集まる。晴れの日にも雨の日にも、同じ四角が違う顔を見せる。

セラ島・南西の旧塩槽

働いている塩場の裏に、低い縁で区切られた古い槽が続いている。三つ並ぶ四角を、近くの家の子どもたちは「雨待ち」と呼ぶ。取水口が波で埋まり、塩作りが西へ移ったあと、底へ薄い土がたまり、ヨシと低い草が根を下ろした。

真夏には草の背が低くなり、縁の白っぽいところがよく見える。雨が降ると水面ができ、屋根や歩く人の影が四角の中へ入る。水が濁っている日にも、じっと待てば、小さな波紋の輪からそこにいるものの大きさを想像できる。

塩作りのセイと娘のヒナは、ときどき固い縁から様子を見る。空き鉢へ雨粒が当たり、太い音のする場所があるという。ただし同じ音はいつも鳴らない。葉の向きも、水の量も、その日ごとに変わる。音を探すために草や鉢を動かさず、聞こえるところで少し待つ。

槽の中は歩く場所ではない。柔らかな底には小さな生き物の通り道があり、縁から見た方が広く見える。雨上がりは帰り道で塩場の庇へ寄るとよい。休んでいる釜の横で、籠を編み直す仕事や道具の手入れが続いている。塩を作らない日にも、塩場には一日分の暮らしがある。

案内帖の目次