もぐ日和世界の案内帖

描き足しの地図壁

舟の修理小屋の外壁に、天気と季節で描き変わる小さな地図がある。いちばん詳しいのは、石と日陰のこと。

アシロ島・カヤ村の舟修理小屋

カヤの北の浜で、舟修理小屋の陸側へ回ってみよう。潮を避ける庇の下に、薄い木の板が三枚掛かっている。湾の形を描いたのはオル。水場までの坂を足したのはサヨ。その下で不思議に大きな顔をしているのは、ミナが描いたガロだという。

これは島じゅうを正確に測った地図ではない。砂の深くなった場所、雨のあとに桶を置くと傾く石、荷車が曲がるときに空けておく隅。毎日そこを通る人が、忘れたくないものを少しずつ足している。波で浜が変わると、線の端は湿った布で消される。

子どもが描く印には、しゃがまなければ見つからないものも多い。石の下の通り道。木戸の隙間からのぞく鼻。白い貝が集まる小さなくぼみ。大人の道を太い線、もぐの通り道を細い線で描くようになってから、同じ浜に二枚の地図が重なって見える。

旅の人はここで道を聞けるが、線だけを頼りに山へ入ることはしない。描いた本人がいれば、今はどんな具合かも聞いてみよう。話が長くなったら庇の端へ寄って、舟と荷の通る真ん中を空ける。地図に描かれない約束も、壁の前で一つ覚えられる。

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