坂の上から、暮らしの音
戸が開き、桶が石段に当たり、入り江では荷を下ろす声。ミナは家で朝飯を食べ、米の小袋と布を持って下のかまどへ向かいます。火はもう起きています。
カヤ村の道と日課、六つの島の店や仕事場。

二つの岬が波をやわらげる、四十戸ほどの村。黄土色の壁に濃い青や赤茶の雨戸、継ぎ板ごとに影の違う屋根が並びます。十歳のミナの家から坂を七十メートル下ると、人ともぐが食卓を囲む「下のかまど」があります。
かまどから浜までは三分ほど。網干し場を抜ける道の真ん中は、荷を運ぶ人ともぐのために空けてあります。北西の水場へは登り道を四分。上で飲み水をくみ、下の槽で籠や道具を洗います。

村の道
ミナの家から下のかまどへ、二分。かまどから浜へ、三分。水場へは登り道を四分。道の真ん中は、荷を運ぶ人ともぐのために空けておきます。
二つのかまどの間には鍋を置く石台、外側には火を使わない作業台。器の低い棚、薪を乾かす屋根、雨の後も乾きやすい砂利の一角があり、幼いもぐの寝床は火口から離れた屋根の端です。
庭の北隣の庇は、大きなホエリのガロの休み場所。襟をこする柱は滑らかで、その少し上には幼いミナが描いた丸い顔が残っています。自分を描いたのかガロを描いたのか、今のミナにも分かりません。
二十二年前の長雨で、丘のかまどへ薪を運びにくくなりました。浜の網小屋へ鍋を移すと畑帰りも舟帰りも集まり、翌年ここに火床ができました。上のかまども、収穫時には今も大鍋でにぎわいます。

舟の修理小屋の外壁に、天気と季節で描き変わる小さな地図がある。いちばん詳しいのは、石と日陰のこと。

大きな木の仕事のすぐそばで、小さな道具を直す場所。匙一本にも、丸太の頃の曲がり方が残っている。

塩を作らなくなった槽に、雨と草ともぐが集まる。晴れの日にも雨の日にも、同じ四角が違う顔を見せる。

片方を深く、もう片方を浅く。市場坂の平焼きには、荷を持ったまま食べる人が覚えた折り目がついている。

茶畑の途中にある、荷を下ろせる石の平場。海が見えるまでの時間を、ここでは湯を飲んで過ごす。

日暮れに白い布が掛かる、西浜の小さな仕立て屋。直したい服と、今夜の話を持って訪ねる。
戸が開き、桶が石段に当たり、入り江では荷を下ろす声。ミナは家で朝飯を食べ、米の小袋と布を持って下のかまどへ向かいます。火はもう起きています。
豆の小石を除き、柔らかな根菜を分け、低い食事台へ器を運びます。ガロの前足の間から、幼いもぐが炊事場をのぞきます。ミナはしゃがんで、皿のそばで待ちます。
暑い時間のガロは、頼まれても庇から出てこないことがあります。そんな日も皿はいつもの場所へ。幼体は庭だけで過ごさず、成体と斜面へ草の実を探しに行きます。
ミナが灰を寄せると、ガロは庇で体の向きを変えます。潮と煮豆と湿った薪の匂い。浜から上がる音のどれが父で、どれがもぐか、ミナには姿より先に分かります。
ヨルバでは夜に起きるもぐが現れ、芋粥の湯気が上がります。ニカの夕市の日は、低い油灯の下に鍋が並びます。冬のカヤでは、ごまがトキの魚を取りに来ます。
カヤでは暗くなると幼体の寝床の格子戸を下ろします。豆が熟す頃は、昼に開けた畑の柵も夜だけ閉じます。人の灯りの外側では、野に暮らすもぐたちの時間が続きます。