折り目屋
片方を深く、もう片方を浅く。市場坂の平焼きには、荷を持ったまま食べる人が覚えた折り目がついている。

丸い板に麦の絵が見えたら、ルカと娘ナリの平焼き屋だ。板が裏返っていたら、どの島にも似ていない海岸線が見える。生地を丸く広げそこねた日の形を、ナリがそのまま描いた。風のある日は、表より裏を覚えている客が多い。
焼き手のルカは、縁をほんの少し厚く残す。煮豆や刻んだ野菜を載せ、片方を深く、反対側を浅く折ると、荷を持つ手の反対で食べやすい包みになる。汁の多い具の日は、店の脇の板へ座って食べる。席は三人でちょうど、四人なら一人が少し横を向く。
夕方の市が立つ日は、低いところにも棚を出す。もぐの分は種や個体の食べ方を連れの人に聞き、麦を細かく裂いたり、具と分けたりする。棚の下で待つ姿だけを見て、同じ一皿を出すことはない。ナリは料理の名より、返ってきた皿の跡を先に覚え始めている。
母娘は、よその島の平焼きの話を集めている。買った品を受け取るついでに、旅先の一枚を話してみよう。海藻を混ぜたもの、甘い根を包んだもの、縁まで薄いもの。話が面白いとナリは紙の裏を探し始め、ルカはその間に鉄板の一枚をひっくり返す。