ニカから、折り目のある手紙
平焼き屋の娘ナリから届いた一枚。失敗した丸、夜の市場、まだ言えていない願いが、細かな字でぎっしり。
ミナへ。いちばん上の丸は太陽ではありません。わたしが昨日焼いた平焼きです。丸く描くと上手に見えて困るので、右下を少し欠かしておきました。母さんは島の形だと言います。ニカではないと思う。港が三つもあるから。手紙の裏を買い物の数に使ってあるけれど、もう済んだ分なので読んで大丈夫。
あなたが帰ってから、わたしも生地を広げる係になりました。火と鉄板はまだ母さんが見ています。最初の一枚は薄すぎ、二枚目は縁だけ厚く、三枚目でようやく折れました。失敗したものは昼に皆で食べました。母さんも二枚失敗しましたが、あれは端の焼け具合を確かめただけ、と言っています。
夜市の油灯がつくと、港が下から明るくなります。昼は人の腰ばかり見える場所に、夜は羽や毛の背中が並びます。ゆずが棚の下へ来たので、あなたの名前を言いました。果物の皮を嗅いで、そのまま行きました。覚えていたかどうかは分からない。名前より、あなたの袋を見せた方がよかったかもしれません。
うちの店の折り方を覚えている? 片方を深く、片方を浅く折るの。わたしは両方そろった方がきれいだと思って、夜市で三つだけ変えてみました。最初のお客さんは、汁が肘まで流れました。二人目は横から食べました。三人目は店の前で座ったので無事でした。みんな知っている人だったのが、よかったのか悪かったのか。
閉店してから母さんに、別の島の平焼きも食べたい、と言いました。笑われると思っていたら、「わたしも」と言われました。母さんがそう思っていたのは知りませんでした。若いころセラで食べた、薄い海藻の入ったものの話をしてくれました。おいしかったのに、店の人の名を聞き忘れたそうです。
すぐ旅に出られるわけではありません。舟賃もあるし、店もあるし、母さんはセラの誰かに先に手紙を頼みたいそうです。それで、まず返ってくる空き壺に、小さな平焼きを包んでつけることにしました。うちの味を知っている人が向こうにもできたら、店を尋ねやすいでしょう。わたしの丸いのは、もう少し待つそうです。
ミナは大きくなったら何をしたい? と書きかけましたが、今日は何を作ったかの方が聞きたいです。この手紙が着くころには、わたしの今日も、あなたの今日と違う日になっているのが不思議です。返事は紙がなければ舟の人に言っておいて。料理の名前は忘れそうだから、匂いの話だけでも。
次に来るときは、市場坂の真ん中で一度止まって見てください。店のひさしに、新しい丸い板を掛けました。字は母さん、麦の絵はわたしです。裏には少し変な島が描いてあります。風でひっくり返ったら、その方を目印に。ナリより。追伸。折り目のところの粉は、払うと字まで落ちるかもしれないから、そっと。
