トキ
若い頃はニカで船乗りや荷運びのもぐの食事を作っていました。口合わせを教えるとき、答えより先に並べるのは食べ終わった器。「嫌い」と決める前に、翌日は別の硬さでひと口を用意します。塩の量は目分量でも外しませんが、匙をしまった場所は忘れます。ガロが初めて幼体を庭へ連れてきた日も、いつもの鍋を見て、浅い鉢を一つ増やしました。

若い頃のトキの台所はニカの港でした。船乗りにも荷運びのもぐにも食事を出し、ウネの味噌もセラの干物も扱いました。それでも知らない種が来ると、まず何を食べ、どこで眠ったかを聞きます。名前だけで皿を決めることはしません。
ミナが嫌いな食べ物を見つけたつもりになると、トキは翌日、硬さを変えてひと口だけ作ります。根菜の角が残る皿、汁だけ残る皿を並べれば、同じ料理にも違う食べ方が見えます。教えるときは、食べ終わった器がいちばん先に出てきます。
右手の親指が曲がりにくく、厚い根菜を切る日はサヨやオルを呼びます。一方で、塩は目分量でも外しません。苦手な仕事は頼み、得意なところを引き受ける。下のかまどの一日は、そうした小さな声のやりとりで進みます。
かまど脇には、使わなくなった大きな匙が掛かったままです。ミナがそこへ布巾も掛けるので、時々すっかり隠れます。新しい匙を探していたトキが古い方を手に取り、布巾を落とすと、近くの幼体が先に鼻を寄せてしまいます。
「もう一つ、浅い鉢がいるね」
日々の習慣
皿の残り方を見て、次のひと口を変えること。答えがすぐ出ない日にも、いつもの場所に器を並べます。