削らなかった匙
同じ形の匙を七本作るはずが、一本だけ木の節にぶつかった。若い木工見習いリクの、初めて名前を残す仕事。
リクは、七本を並べるのを楽しみにしていた。同じ長さ、同じ深さ、同じ細い柄。木口の棚へ見習いに入って一年、はじめから仕上げまで任された最初の注文だった。エダは削り台を明けてくれた。窓の外では丸太が浜を転がり、ひとつ動くたびに床の木屑がわずかに震えた。
六本目までうまくいった。七本目の柄に、枝の名残の硬い節があった。刃はそこだけ違う音を立て、木目に沿って小さなささくれが起きた。さらに削れば節を落とせそうだが、隣の匙より柄が細くなる。リクは布で六本を包み、七本目を台の奥へ隠した。
エダにはすぐ見つかった。「木が足りないなら、次の端材は明日来る」。叱られなかったことが、かえってつらかった。注文をした船宿の人は夕方に来る。リクは代わりの材を求めて棚を調べた。木片は山ほどあるのに、ちょうどよい幅で、乾いていて、節がないものはなかった。
昼、荷運びのイサが、欠けた椀の縁を直してもらいに来た。右手の指をゆっくり開き、持参の匙を左へ持ち替えた。長年縄を扱った手は太く、細い柄が指の間でくるりと回った。「この頃、飯が逃げる」とイサは笑った。リクは台の奥の匙を見た。節のところだけ、指を掛ける出っ張りが残っていた。
「まだ仕上がってないけど」。リクはイサに持ってもらった。匙は回らなかったが、節の角が指に当たった。角を少し削る。持ってもらう。先を椀へ入れると深すぎたので、柄の裏を削って傾きを変える。エダが仕事の手を止めたのは、リクが自分から「底はあとどれだけ削れる?」と聞いたときだった。
冷ました根汁をひと口すくい、イサは黙って飲んだ。もうひと口。最後に椀を置き、「これは、いくらだ」と聞いた。リクは値を知らなかった。エダが木の代と仕事の代を一緒に数えてくれた。銅貨は少なかったが、リクが初めて受け取る、自分の匙だけの代金だった。
夕方、船宿の人には六本を渡し、一本は明日の舟に届けると約束した。事情を話すと、相手はイサの大きな手を思い浮かべて笑い、「揃う方の七本目を頼むよ」と言った。リクはうなずいた。同じものを作る仕事も、まだ終わっていなかった。次の朝、新しい木からもう一本を削り始めた。
一週間後、イサが寄った。匙の柄には細い紐が通され、椀の袋に結ばれていた。リクは自分の印を彫り忘れたと言った。イサは節を上へ向けた。「これで分かる」。リクは笑ったが、次の匙には小さな印も入れた。棚には、きれいな木と、少し曲がった木を分けずに並べておいた。
