風待ちの、七つめの椀
帰るはずの舟が出ない。ニカの港で不機嫌になったミナを待っていたのは、行き先の違う人たちが囲む鍋だった。
朝のうちに帰るはずだった。ミナの袋には、母へ渡す釉薬の小包と、トキへ渡す干しきのこが入っている。ところが父は港の外を見に行き、帰ってくると舟の荷を下ろし始めた。「今日はここに泊まろう」。内港の水は穏やかなのに、とミナは思った。岬の向こうの風は、ここから見えなかった。
船宿の壁には、同じように行けなくなった人の上着が五枚掛かっていた。ウネへ空き壺を返す人。セラへ縄を届ける人。荷綱を繕う舟頭。ニカで仕事を終えた父とミナ。皆が窓を見るたびに、窓の外の帆柱が少し傾いた。ミナは荷袋の口を結び直した。家へ帰る支度だけが、何度でもできた。
夕方、見習いのエンが空の魚籠を抱えて来た。「市場も、もう良いのは残ってない」。船宿のモエは鍋を洗い、「それなら残ったものから始めよう」と言った。セラへ行く人が根菜を二本出し、ウネへ行く人が豆を出した。父は自分たちの旅の残りの麦を広げた。
ミナは袋を抱いたままだった。きのこはトキのものだ。帰るのが遅れたうえに、土産まで減らしたくない。けれど、鍋の湯を見ていると、雨の日に下のかまどで嗅ぐ匂いが欲しくなった。「これ、少しだけ使ってもいい?」父が小包の結び目をほどき、半分を別の布へ移してくれた。
モエが厚い根菜を切り、ミナはきのこを水へ戻した。乾いた傘は、指の下でゆっくり柔らかくなった。鍋が煮えるころには、皆が窓でなく火を見ていた。エンだけが戸口へ立っている。「おれ、魚を買えなかったし」。モエは六つ並べた椀の横を、濡れた布で一拭きした。
「じゃ、七つめを持っておいで」。エンは棚から椀を取った。誰の根菜が大きいか、どの島の豆が早く煮えるか。話しているうちに、ミナの汁には最初なかった香りが重なった。エンが麦を一粒、前歯にくっつけたまま船の話をするので、ミナはとうとう笑ってしまった。
翌朝も舟は出なかった。今度はミナが先に荷袋を棚へ上げ、モエに朝の仕事を聞いた。二日目の午後、風が変わったと父が呼びに来たとき、もう帰らなくては、と思った。戸口ではエンが空の籠を振った。次に来る日は魚を入れておく、と約束しかけ、二人で笑った。
カヤへ戻ると、トキは小さくなった包みより先に、ミナの話を聞いた。「それで、どんな汁だった?」。ミナは六人と七人を数えかけてやめ、器を一つ選んだ。「今度作る。きのこは、これで足りるかな」。トキが袋をのぞき、豆の棚を開けた。
