眠らない窓に、白い布
ニカから移ってきた仕立て屋の親子。昼に誰も来ない小さな店で、ユネは夜の島の開店時刻を見つける。
西浜の家は、昼になるとよく眠った。ユネが母とニカから移ってきて十日、窓辺に広げた継ぎ布には、誰の指も触れていない。十四歳のユネは荷物の片付けを終え、店の板を拭き、また拭いた。母は近所から頼まれた雨戸の布を縫っている。「市場坂なら、もう三人は前を通る時間なのに」
ニカでは人が多すぎると文句を言っていた。ここでは足音がしないと落ち着かない。午後、舟番のサクが破れた袖を持って来た。母が袖口を見る間、サクはユネに、夜の鍋へ来ないかと言った。「眠くなければ、お母さんと」。ユネはうなずいた。誘われたことより、夕方から人が集まることが気になった。
日が落ちると、閉じていた窓が一つ開いた。もう一つ。雨戸の裏に白い布が掛かり、暗い斜面に細い四角が浮かんだ。母と浜へ下りる道では、芋を焼く匂いがした。ユネの知らない顔が次々に現れ、昼には聞かなかった戸板の音が、上から下へ渡っていった。
鍋のまわりでは、これから舟を見回る人が粥を食べ、仕事を終えた人が空の椀を洗っていた。サクの袖の穴を見た隣の人が、自分の肩も見せた。さらに隣から、ほつれた袋が出てきた。母は一つずつ指で生地を確かめた。ユネは、家に並べた継ぎ布の色を思い浮かべた。
「今夜、店を開ける?」。帰り道でユネが言うと、母は眠そうな顔で笑った。「今から全部はできないよ」。そこで窓だけ開け、灯りの近くに布を四枚掛けた。針は母の手元に、預かる品はユネの膝に置いた。白い布を掛ける場所がないので、店の板を少し横へずらした。
最初の客はサクだった。頼んだ袖はもう直っていたが、隣の家の袋を持って来た。二人目は粥のところにいた人。三人目は、赤い布を見に来ただけの子だった。ユネは、ニカのように声を張らずに話せることに気づいた。波が一つ引く間に、布を選び終わらなくてもよかった。
客が途切れたころ、母が針をしまった。ユネは白い布を外そうとして、浜のさらに下に小さな琥珀色を見つけた。サクが家の前を通り、「今夜は残ってるな」と言った。三人で足元を照らし、近くの乾いた石まで下りた。岩棚の水底に、誰かがほどいた糸のような光があった。
持ち帰る入れ物はなかった。ユネは手のひらを開いてから、笑って閉じた。次の朝は遅く起きた。窓に布を並べる仕事も、昼過ぎまで取っておいた。店の板の裏には、炭で「日が沈んでから、母さんが眠くなるまで」と書いた。母はそれを読んで、最後に小さく「ユネも」と足した。
